トリミングサロンスタッフの教育を考える

お客様のワンちゃんを満足のいくカットスタイルに仕上げ、対応も無難にこなせるトリマー。言うのは簡単ですが、一人前になるにはかなりの日数が必要です。

最初から一人や家族だけで経営・やりくりしているお店ではスタッフの教育問題は発生しませんが、規模の拡大を考えているオーナーにとってはトリマーの教育は重要かつ難しい問題です。

自分の経験と現在の時代の流れを踏まえて

自分が若手の頃はどのような教育を受けたでしょうか。そして、今の若いスタッフ達にはそれを基準にして教えていませんか?
もし、今と昔と全く同じに考えているなら少々問題です。昔の教育方法は今では通用しないことがあるからです。

昭和と平成で教育環境も仕事の環境は大きく変わっています。一昔前はトイプードルやミニチュアダックスフンドなどの愛玩犬の数も少なく、トリミングサロンもほとんど見かけませんでした。

しかし現在では全国各地に犬の美容という名目のお店が出店し、トリマーの学校も多数できています。また、若い人達の環境も大きく変わっており、SNSなどで情報もすぐに手に入る時代になりました。

教育をするにあたっては、スタッフに尊敬されていなければ成果は得られません。そのためには、「自分の場合はこういう方法で一人前になった」というのを明らかにし、そのなかで「今は昔と違う」という事を伝えながら教えるのがいいでしょう。

スタッフのモチベーションアップ

自身でも経験はあると思いますが、オーナーとしてトリミングサロンを経営するのと、従業員としてトリマーで働くのではモチベーションは全然違います。お店や売り上げに対する利害の割合が違うので当然と言えます。

ペット業界に限らず、従業員のモチベーションを上げるのは会社やお店の永遠の課題といえます。某リゾート施設会社や全国展開のカフェに代表される成功例もあれば、ブラックと言われて業績を落としていく会社もあります。

お金よりも内容を重視して飛び込む業界

トリマーがモチベーションを上げる方法に確実なものはありませんが、多くの人は犬が好きでトリマーになっています。

会社の営業をしている人は、その会社の商品が好きで入った、という訳ではありませんね。それに対してトリマーはどうでしょうか。「好きな事をしながら楽しく仕事をしたい」と考えている人が多い業界といえます。

好きな事をもっと楽しませてあげよう

一般的にモチベーションを上げる方法としては「目標を決める」とか「小さな成功体験をする」など言われていますが、トリミングサロンに関してはちょっと違う目線になるのが良いかもしれません。

「好きな事をもっと楽しくさせてあげる」という考えで、「大好きなカットを仕事にできる幸せ」を感じさせてあげるのが一番の良策かもしれません。

将来を真剣に考えているトリマーにはそれなりの教育を

トリミングサロンの経営を成功させるひとつの要因として、クオリティの高いトリマーの活躍は欠かせないものになっています。ただそれは「運」だけではなく、オーナーの方針や教育も大きく関わっている事は言うまでもありません。

スタッフそれぞれの気持ちを考慮して

ワンちゃんが好き!カットがしたい!という単純な理由で飛び込んだトリミング業界でも、大人になるにつれて独立願望も生まれる人が大勢います。
一方で、「とにかく楽しく仕事がしたい」と考えている人もいます。「自分はオーナーになるタイプじゃない」と思っている人はそれなりに、逆に、「この仕事を極めたい」「独立したい」と考えている人には、それなりに成長できるシステムを考えてあげましょう。

学校では習えない実践的な教育を

独立願望があるという事は、スタッフの教育方法も教えてあげなければいけません。また、適当にやっていては尊敬されない可能性もあります。できるだけカットや経営の事について真剣に教えてあげましょう。

真剣に教育を行うには、教育のスケジュールを立てていきましょう。カットの実践の他にも、学校で学んだ事をアレンジさせた実践的な講義をすると「さすがに経験を積んだ人は違うな」と尊敬されるかもしれません。
基本的な動物の扱い方から店舗の管理の仕方、受付での対応方法、カルテの重要性や活用方法、広告宣伝の費用対効果など、学校では教えてくれない事を積極的に教えてあげましょう。

尊敬できる人が作ると効果的なトリミングサロンのマニュアル

近年では多くのお店でスタッフの教育の一環として「マニュアル」というのを作成しています。
トリマーの人数が多ければ多いほど教育は一貫性が必要となるので、質の良いマニュアルはスタッフの質を高めるのに確かに効果的といえます。

実戦経験の乏しい人が作ると

若いスタッフやトリマーから見てそのマニュアルの作成者が尊敬できる人でなければいけません。オーナー自身で作るのであってもそれなりの実績が必要です。
例えばカットの経験のない別の畑で仕事をしていた人がトリミングサロンを立ち上げた場合、そのオーナーがつくったマニュアルを真剣に読むでしょうか。

スタッフが尊敬できる人が作ったマニュアルは

それに対して、多くの犬の美容関係者から尊敬されているカリスマトリマーが作ったマニュアルならどうでしょう。「経営の事を知らない人」でも、トイプードルを出陳してドッグショーで賞を取った、カット大会で優勝した、などの実績があるだけで、そのマニュアルに対する真剣度は変わります。

また、どこかの本をそのまま渡すのも良くありません。やり方はお店それぞれによって違うのに、他の人が書いたマニュアルを使用するのはどうでしょうか。
少し面倒と思うかもしれませんが、将来のお店を担うスタッフを教育するためには、それなりの実績がある人達から情報を集めて作成しましょう。

トリミングのお客様に不快感をなくすための教育?

販売やサービスのお店向けの市販の本などを見ていると、「スタッフの教育」というのがあり、そのなかには「どのように対応力を身につけるか」という項目をよく目にします。

例えば、若いスタッフは自分の言葉で対応してしまい、不快な印象を与えるので、言葉の教育をしっかりと行いましょう、などというのが多いようです。

固いマニュアルには笑顔をなくす副作用が

はたしてそうでしょうか?近年ではとくに人間の対応が機械的になり、感情がどこに入っているのかわからないようなセリフを耳にします。
マニュアルをつくってその通りに話すと、まるで演技力のない大根役者が演じているようで逆に不快になる事もあります。

可愛い犬をカットする仕事なのに、そんな堅苦しい言葉で対応するのは逆効果にもなります。自分の言葉でも、愛情をたっぷり出した方がよっぽど好印象です。

自分の言葉でも笑顔があれば好印象

マニュアルをつくるなら、是非言葉遣いに関する決め事はやめるようにしましょう。
カットスタイルを「どのようにいたしますか」と笑顔なしで棒読みで聞かれるか、「どうします?」と満面の笑みで聞かれるか、どちらが好印象でしょうか?

スタッフをがんじがらめにして笑顔をなくす、これがマニュアルの最悪の活用方法です。楽しいトリミングサロンづくりには「自由」も取り入れてください。